秘密基地

 敬愛する作家・伴田良輔氏に倣って、少し猥雑な話を駆り立ててみたい。

 音楽レコーディングにおけるプライベート・スタジオなどというものは、かつて少年が心をときめかせた“秘密基地”のようなもので、『ウルトラマン』に出てくる科学特捜隊だとかウルトラセブンと協働した地球防衛軍が極東支部とする富士周辺の基地、などがそれに相応する。かつて少年――と書いたが、おそらくそういったものに心ときめいたのは昭和の世代の少年達であって、平成世代の子供らの感覚はこれに当てはまらないかも知れない。少なくとも私は“秘密基地”に憧れ、プライベート・スタジオという空間で言わばそれを具現化してしまった。

 私が小学生だった頃――昭和50年代――我が町の宅地造成と商業地開発の波はまだ緩やかで、あちこちに松原とその他の雑木林が顕在していた。そういった場所は夕暮れを過ぎると、一気に視界が陰って暗くなり、闇の空間に変貌した。子供らにとってそういった雑木林は、良き遊び場でありつつ何かの秘密事をするには最適な場所であった。

 さて、とある空き地の一角が、私とその仲間達数人の集合場所…憩いの空間…サロンとなっていた。ちなみにそのような場所はいくつもあって、大人達がやってきて都合が悪くなれば、用意周到に別の空き地へと移動する。その行動はまるで少年探偵団まがいだ。
 その、とある空き地が心地良かったのは、ほぼ10メートル四方の一角全体が、高さ2メートルほどに伸びた蔓草で覆われていたからである。しっかりと太い茎は子供らの身長を超え、巨草と化した蔓草の葉も大きくざらついていて四方の壁面部を呈し、大人らは近寄らず、子供らの隠れ場所には最適だった。
 そこはジャングルに見立てられた秘密基地、であった。蔓草の茎を部分的にへし折り、ジャングルの内部へ続く通路を形成。内部の中心部には、段ボールで小屋のようなものを拵え、そこが我々の本部だ。ここでしばし他愛のない秘密会議が催される。

 ある日の朝、登校途中で仲間の一人が、道端に落ちていたビニ本を発見した。雨ざらしで雑誌は干涸らびた状態となっていたものの、なんとかページをめくることができる。とは言え、朝方から小学生がそれを路上で見入ることは許されない。小学2年生の少年にとってその発見は、驚愕と危険と微弱な性欲とが複雑に入り交じった一大事件であった。彼の咄嗟の判断によって、そのビニ本は、発見された場所の周囲の、人目に付くことのない箇所に放り込まれ、事なきを得ず、彼は興奮しながら急ぎ足で学校へと向かった。
 その彼の行動の隠密は、すぐに仲間との緊急連絡で重要案件となり、放課後、その場所に集合してビニ本を秘密裡に確保し、基地へと輸送することが閣議決定された。

 その後、秘密基地の内部で、いかにして確保した一冊のビニ本が扱われたかについて、詳細は省くことにする。吸着してめくりづらいページを1枚1枚めくった時の、新世界いや知られざる銀河発見の感動。そして脳内や身体を過剰に刺激する欲望の雷電。息を凝らし、決してこの諸行動が外部に漏れてはならぬ、という危険飛行の共有。――やがて少年達は進級し、成長し、捨てられたビニ本に対する興味は薄れ、秘密基地そのものも自然崩壊していくのだが――それらは、大人へと駆け上っていく少年達の、ある種の踏み越えなければならない第一歩であったことは間違いない。
 秘密基地よ、ありがとう。

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