キャロル・キングにおける70年代サウンド

Carole King『Rhymes & Reasons』
 近年リマスターされたキャロル・キングのアルバムCD『Rhymes & Reasons』のサウンドがどうも疑わしくて――普段はあまりこんなことはしないのだが――つい最近になって同アルバムのレコード盤を入手しようと考えた。一言で言えば、そのCDのリマスターが制作当初の《70年代サウンド》に似つかわしくないのだ。マスタリングされたスタジオのクレジットを見たら、ニューヨークのSony Music Studiosとなっており、ちょっと腰が砕けそうになってしまったのだから。

 1972年生まれの私にとって、《70年代サウンド》というのは、郷愁感ビタビタの、こってり濃厚テイスト。もあもあ~っとした甘さと柔らかさと厚みによる肉汁たっぷりのアナログ・サウンドであり、それは耳の奥にしっかり刻み込まれたミュージック・サウンドの極私的標準点である。今日のデジタル・サウンドは、これにクリアさとシャープさのバランスが加わってハイブリッド。デジタル&アナログ機材の掛け合いによってテイストががらりと変わる。少なくとも90年代までの平板なデジタル・サウンドよりは厚みが増しており、アナログ・サウンドにぐっと近くなった。したがってアナログ盤のリマスターの需要も増えてきている。

 私は《70年代サウンド》を良くも悪くも、ほとんどテレビ・コマーシャルのタイアップ曲で慣らされ、カーペンターズや山下達郎氏の流麗なヴォイスは忘れることができないでいる。要するに柔らかく温かみがあったのだ。
 同時期(幼児期)に聴いていた自宅のクラシック・レコードなどは、それ以前の60年代サウンドであり、比較的痩せた感じがする。私にとって《70年代サウンド》はあくまで、テレビの中の音楽で擦り込まれたのである。

 先述した『Rhymes & Reasons』の4曲目が頗るいい。「Feeling Sad Tonight」。この曲のピアノのフレーズは、ぐんぐんと伸びてゆくような力強さが感じられ、その“Feeling sad tonight / But everything's all right”という歌詞とは真逆の趣向でいかにもキャロル・キングの曲らしい。が、この時鳴っているハイハットのチッチッチッチが胡散臭く、《70年代サウンド》とは言い難い。クリアでシャープでモダンすぎる。リマスタリングによるものであろうか。

 1993年頃だったか、私は舞台音楽の関係でカーペンターズのいくつかの曲をカヴァーして歌ったことがあったのだが、その時はっきりと《70年代サウンド》――それをA&Mサウンドと言っていい――と90年代のサウンドとの違いを感じ取った。そのロスにあるスタジオは非常に有名である。
 キャロル・キングの曲にしても、西海岸の日差しを浴びたA&Mスタジオのサウンドでなければ成立しない。そう、彼女がニューヨークの南部生まれだったとしてもだ。

コメント

過去30日間の人気の投稿