投稿

10月, 2004の投稿を表示しています

☞最新の投稿

アイリッシュ・ウイスキーとジョイスの話

イメージ
【世界最古の蒸留所が誇るアイリッシュ・ウイスキー「キルベガン」】  朝日新聞が毎月第1日曜日に発行する特別紙面[朝日新聞グローブ](GLOBE)のNo.245は、興味深いウイスキー特集だった。その紙面のトップページにあった写真に、思わず私は眼を奪われたのだ。それは、ウイスキー・グラスに注がれた琥珀色の液体が、揚々たる深い海と化し、そこに突き出た南極大陸の氷山を思わせる氷の塊の、なんとも美しい風景――。  この世に存在する桃源郷とは、そのようなものなのだろうか。写真の下に、それとなく村上春樹氏の言葉が添えられていた。 《あらゆる酒の中ではウィスキーのオン・ザ・ロックが視覚的にいちばん美しい》 (『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(上)』新潮文庫)。  私はしたたかにこのウイスキー特集を読んでから、ジェイムズ・ジョイス(James Joyce)の本を開いた。ウイスキーのオン・ザ・ロックがこの世で最も美しい酒の姿であるとするならば、ジョイスの小説は、男にとっても女にとっても、破廉恥で最も穢らわしい毛皮をはいだ自己の内面の姿を、目の前の鏡の中に見出す瞬間を与えてくれるものであり、その傍らに寄り添うウイスキーは、みすぼらしい本当の《私自身》と“親しい友”でいてくれる、最良の飲み物なのである。  ゆえに私は、心からウイスキーを愛している。 【[朝日新聞グローブ]No.245「ウイスキーの時間」】 ➤GLOBEの「ウイスキーの時間」  特別紙面のウイスキー特集のメインテーマは、「ウイスキーの時間」。コロナ禍で「家飲み」が増えたという。どの国においても、家族や友人知人と共にバーやレストランなどで酒を飲み交わす機会が減ったというわけだ。そんなご時世でも尚、ウイスキーは世界的なブームだそうである。むしろビールやワインとは違い、ウイスキーはもともと孤独を愛する人々が嗜む酒の代名詞であったから、「家飲み」の需要が底上げしたのかも知れない。  とは言いつつも、ウイスキーは近頃、ハイボールという飲み方でもたいへん愛されてきているから、女性が好んで“軽くウイスキーを飲む”という機会が増えているせいなのだろう。  紙面全体の内容を大雑把に要約すれば、スコッチの生まれ故郷以外の国でも――勿論日本も含まれる――新しいウイスキーが次々と誕生しているという。  ここでいう新しいウイスキーとは、伝

山寺 Piano Rhapsody

イメージ
※以下は、拙著旧ホームページのテクスト再録([ウェブ茶房Utaro]2004年10月14日付「山寺 Piano Rhapsody」より)。 踏み入れる「印象派」の孤絶…。 山寺と円仁 【立石寺(山寺)】  860(貞観2)年、現在の山形県大字山寺宝珠山の山腹に、慈覚大師(円仁)によって、延暦寺の別院として創建された天台宗の古刹。室町末期に戦渦に遭い、焼失。  1543(天文12)年、復元。山号は宝珠山。清和天皇から貞観寺の寺号を贈られたという。延暦寺の根本中堂の常明燈を移し、東北随一の天台宗寺院として栄える。江戸時代には、幕府も保護を寄せた。立谷川にのぞむ奇岩景勝の中に、根本中堂、三重小塔などの堂宇が散在する。 【円仁(794~864)】  日本天台宗の僧。延暦寺第3代座主、山門派の祖。慈覚大師。下野国に生まれ、比叡山に入り最澄に師事した。  838(承和5)年入唐。  847(承和14)年帰国。  854年座主。叡山に秘密灌頂(かんじょう)熾盛光仏頂法(しじょうこうぶつちょうほう)を始修し、「金剛頂経疏」「蘇悉地経疏」を著わして、天台密教(台密)を基礎づけた。また、常行三味堂を建立して、五台山の念仏門を移し、あるいは文徳・清和両天皇に菩薩戒(ぼさつかい)を授け、「顕揚大戒論」を著わして円戒の宣揚につとめた。 【天台宗】  中国、日本における仏教の一宗派。中国の天台大師智顗を高祖とし、天台大師の説かれた法華経による円頓一乗の教をひろめる宗旨。日本では、伝教大師最澄を宗祖とし、滋賀県にある比叡山延暦寺を本山とする。日本天台宗は、真言密教をも発展させて、弘法大師系統の真言宗=東密に対して台密を発展させ、念仏を流行させ、禅をも伝えたほか、神道・声明・歌道・書道・華道・文学・芸術などをも摂取包含しつつ発展し、日本文化の根本を培うに至った。 〔参考文献『世界大百科事典』(初版・平凡社)『原色現代新百科事典』(初版・学研)〕 ドビュッシーと私  私が初めて、ドビュッシーの「月の光」(Clair de lune)を聴いたのは、いつだったのだろう。赤ん坊の頃、既に家にあった“レコード・プレーヤー”と“レコード”のステレオ一式は、私をそのクラシック音楽の世界に、容易く招き入れてくれた