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プディング妄想そしてプリン三昧

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芸能人の不倫ほど、食えないものはない。見苦しく、おぞましく、その非難の惨状を取り繕うのに必死な当事者は、家庭人としての体裁と社会への扉があっけなく閉じられようとする瞬間に、己の貧相と終始向き合わざるを得なくなる。  そうした人間の醜さゆえに不倫という。またそれが、仰々しくも侘びの沙汰――出会ってしまったが為の逃れられぬ恋慕――の身の上に生じた不倫であれば、どこか文学的で暗がりの野良猫の徘徊にも似た悲哀が感じられ、人間は所詮善人ではなく、そうした愚かな過誤を一生のうちにふと一度か二度、犯しかねないものである――という諸説入り乱れる含蓄と啓蒙に富んだ、近世の西洋人の警句のたぐいを思い返したりして、例えばまた、そういう調子の映画(堀川弘通監督の映画『黒い画集 あるサラリーマンの証言』)を観たりして、人生の破滅的な断罪やら教訓を反面教師的に心に打ち付けることができるのだけれど、その不倫の現場が――とあるビルディングの地下駐車場の“多目的トイレ”となると――あまりに異様な、とても文学的と称するわけにはいかなくなるのである。
 ここでいう文学とは、純文学のことである。つまり、“多目的”=multi-purposeの意味を履き違えた異形の不倫というよりは、単にお互いが、“もよおして遊ぶ”キュートなフェティシズムの乱遊に興じていたに過ぎなかったのではなかったか。この性癖には、近世のインテリジェンスな西洋人も、言葉を失って頭を抱えてしまうであろう。
 不倫。あちらこちらの小学生がついつい、学校でこんな不謹慎な話題を持ち出しかねなかった。「あのさ、多目的トイレでフリンって、結局、トイレで何すんの?」――。彼らは思春期の余りある好奇心をたえずくすぐられている。性欲の快楽に関する疑問に、半ば騒然とする心持ちを抑えつつも、おもむろに図書室へ行って、厳かに古びた国語辞書を手に取るに違いないのであった。また知性ある女子は、そんな男子の興味本位な話題にはつゆほども関心を示さないふりをしつつ、家に帰ってから、その漠然としたモヤモヤ感を払拭しなければならなかった。その最適な所作として、自身の勉強机の隅に置かれた国語辞書(誕生日に買ってもらったりしたことを思い出しつつ)を、開くであろう。――フリン。そこにははっきりとこう記されているのだ。 《既婚者が、別の相手と性的関係を結ぶこと。【類】密通・姦通・…

ドルジェル伯の舞踏会

※以下は、拙著旧ホームページのテクスト再録([ウェブ茶房Utaro]2007年9月15日付「ドルジェル伯の舞踏会」より)。

 2007年8月10日、三島由紀夫の短篇集『裸体と衣裳』(新潮文庫)の中の諸作品を読み終える。「ドルジェル伯の舞踏会」は、レイモン・ラディゲと作者が相対峙する短篇で、戯曲と小説の中間的な作。例えば泉鏡花の「外科室」よりも、ある意味、耽美でしかもイメージとして「漆黒の闇」が現れてくるはずなのだ。

 三島由紀夫の「ドルジェル伯の舞踏会」などというのは、表層的にはラディゲに対する詰問責めという形で、幻の中で彼との密会を描き、夭折した若者への主観的作家的欲望を満たそうという企図になっている。その決して穏やかとは言い切れない主観的作家的欲望に、読む側が引き込まれ、同時に中途で呼吸困難に陥り、作者の欲望とはかけ離れた部分でこの一幕を垣間見ようとするが、ついにその全体像が見えぬまま幻は消えていく構図である。

 この短篇を知るきっかけとなった短篇集『裸体と衣裳』を先日手にしたのは偶然でも何でもなく、私が20歳の頃(1990年代初め)に三島文学に興味を持って『仮面の告白』や『音楽』『金閣寺』などを貪り読み、今になって読み忘れていた『裸体と衣裳』を読み始めたに過ぎない。実際、その中の三島自身の日記は特に意味はないにせよ、結果的に「ドルジェル伯の舞踏会」が引っかかってきたのである。

 さて、三島由紀夫が書いた短篇「ドルジェル伯の舞踏会」ではなく、原作のラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』の方も堪能した。こちらは恋愛小説でありながら、作者曰く「最も淫らな貞潔」が主題である。


 8月某日、ラディゲの『ドルジェル伯の舞踏会』読了。最後に登場人物達の破綻があるのかと思いきや、そんなものは何もなく、夫人とドルジェル伯の平常を取り戻そうとする会話で終わっている。とても小説の末尾という感じではないから、この小説は未完成なのか、意図的に最後の原稿を抜き去ったか、ラディゲ自身が時代の良識に合わせて削除してしまったか、いずれかであろうと思われる。個人的には、3番目の事由が濃厚なのではないかと思うのだが、表題の"舞踏会"がそこにあることはどうやら確信的だ。

 三島由紀夫の「ドルジェル伯の舞踏会」は決して佳作小品といったたぐいの稿ではない。かといってラディゲの表題に対…