オホーツクに消ゆ〈二〉

 前回からの続き。
 『北海道連鎖殺人 オホーツクに消ゆ』を初めてプレイした小学6年生の頃を思い出す。ランドセルを背負いながら、遠いオホーツクの海に思いを馳せていたあの時――。

 この物語は東京湾での事件を発端に、北海道の道東で次々と殺人事件が起こる。目くるめく登場人物の複雑さに、私は頭を抱えながら《旅》の面白さに浸ることができた。そんな『オホーツクに消ゆ』で印象に残っているシーンはいくつもある。そのうちの一つ、第4の殺人事件。知床五湖でのストッキング殺人事件である。

 ストッキングが首に巻き付けられ、知床五湖の湖に浮かんでいた若い男性の死体。死因は顔を押しつけられての窒息死。周辺の聞き込みによれば、被害者は、カップルで仲の良さそうな20代の髪の長い女性を連れていたとのこと。犯行は、この髪の長い女性によるものではないかという疑いが浮上する。しかし、子供ながら私は、この第4の殺人事件を奇妙だなととらえていた。
 仲良くカップルでうろついていたという証言によって、知床五湖の現場まで被害者が歩いて行ったことは事実で、他に不審者の情報がない以上、その20代の髪の長い女性が怪しいことは明白である。湖でカップルが何らかの口論になったとして、土壇場で自らのストッキングを外し、それを凶器にして首を絞めるであろうかというまず第一の、素朴な疑問が私の中にあった。
 第二の疑問は、この20代の女性が30代と思われる被害者の首を絞め、湖で窒息死させるに至るこの一連の動作を、男の力を封じ込めながらやり通すためには、相当な腕力が必要ではないかということ。仮にその髪の長い女性が腕力のある女であったとして、咄嗟にストッキングを外すのは到底無理であるから、別の何かで首を絞めたことは考えられる。死後、何かの目的で被害者の首にストッキングを巻き付けただけ、という推理も成り立つ。

 その女性が脚に穿いていたストッキングを咄嗟に外したのではなく、既にそこにストッキングがあったのだとする推理も否定できない、どころか濃厚だ。だが、何故現場にあらかじめ、ストッキングがあったのか。女性が事前に脚から外していたか、別に用意していたか、あるいはこの女性のものではないストッキングが、知床五湖の現場に偶然落ちていたか――。
 その女性が事前に脚からストッキングを外していた説を考えてみる。何故女性は事前にそれを外していたか。小学生でもこの理屈は分かる。若い男女のカップルであるのだから、美しい大自然を目の前に、熱い情欲に溺れていたのだと。連れの髪の長い女性の犯行であると仮定するならば、それが咄嗟の喧嘩であろうと計画的な犯行であろうと、ストッキングがこの事件の謎を解く重要な鍵であることは間違いない。私は、『オホーツクに消ゆ』を共にプレイしていた友人と、こんな会話をしたことを憶えている。

「…ストッキングだよね」
「そうだよね。女のストッキングだよね。男はそんなもの持ってないもんね。もしかすると、その髪の長い女性って、キャバレー・ルブランに勤めてたのかも」
「え、そっかー。だったら晴海埠頭の事件もその女だよね。それってじゃあ、ルナじゃん。犯人はルナかー」
「ルブランに電話しようよ。ルナにストッキングのこと聞きたいよね」
「よし、電話しよう」

 知床五湖の現場で、死体の首に巻かれていた重要な証拠品=女のストッキングは、咄嗟に外したのか、あらかじめ外れていたのか、既にそこに落ちていたものだったのか、今以て謎は解けていない。
 女のストッキングはいかなる状況においても、男にとって凶器となり得ることを、知っておかなければならない。

「オホーツクに消ゆ〈三〉」に続く。

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