性教育本の名著を伝える〈二〉―SEX & our BODY

 子供達に「性」を教えるためには、最も安上がりで危険な、インターネット上の情報を安直に活用することは避けたい。学校との連携が不可欠だが、家庭では、性教育本でその知識をしっかりと補充する考え方に、私は同意する。
 とは言え、多く出版されているどの本を家庭の書棚に用意すべきか。無論、“若者に訊いたセックス・アンケート”などと題してセックスを特集した雑誌など論外だが、専門的な性教育本に限っても、その取捨選択は非常に難しい。

 前回、私はまず、小学校に上がった子供達のためにピーター・メイル著、谷川俊太郎訳『ぼく どこからきたの?』(河出書房新社)を紹介した。この本は彼らの性に関する素朴な疑問に対し、遠回しせず的確に絵と文で表現している名著だ。

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 では、中学生以上の10代に、どんな性教育本を薦められるのか。

 その前に、逆の例を紹介しておきたい。現在出版されている性教育本の中にも、子供達に何を伝えたいのか不明瞭な本がしばしば見受けられる。

 例えば、いかにも子供達が手に取りたくなるような、優しいイラストが表紙のある大型本(しかもシリーズ全6巻)。本のタイトルも無難で、すぐに性教育本だと分かる。しかし――。

 もちろんその本は、立派な大学教授が監修した、真面目で“嘘が書かれていない”本だ。が、中を開いて読み始めると、大人が読んでもだんだん興味が失せてくるような、退屈な本…。
 文章もしっかりしており、挿絵もカラフルで豪奢。しかし肝心なことが伝わってこない。染色体や遺伝子の話、ホルモン分泌の話、精子と卵子の話。そうした話は確かに重要なのだが、生身の人間の話ではないように思える。
 事実、類人猿の写真が出てきて、ああ、猿も人間も同じなのだと気づく。いやいや、待てよ、この本を読んで知りたいと思ったことは、哺乳類の動物学の話ではなかったはずだ。もっと人間についての、性交や具体的な避妊の方法、出産のこと、性器のことではなかったか。そう、その本には、子供達が“本当に知りたい”性の情報がほとんど書かれていなかったのだ。

 私は、一部のこうした性教育本を読んで少し分かった気がする。
 親が手に取ってパラパラッとページをめくり、真面目な文章で書かれてあるし、過激な挿絵がほとんどないから、こういう本を子供に与えて無難に性教育し、ついでに遺伝子や染色体のことなんかに興味を示してくれたら、もしかすると頭が良くなって優秀な学校に入れるかも知れない――。
 つまりこれは、大人が買い与えようとする、言わば親目線の論理だ。我が子が他の子より賢くなればいい、と。

 子供達は、そんなつもりでそういう本を読まない。今は猿のことではなく、自分の性のことを知りたいから。本当に知りたいことが書かれていないから。
 大人が買い与えようとする性教育本と、子供らが自ら買って読みたい知りたいと思う性教育本の中身とでは、大きく異なる、という例である。

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【河野美代子著『SEX & our BODY』】
 そこで私は次の本を、子供達に薦めたいと思う。
 河野美代子著『新版 SEX & our BODY 10代の性とからだの常識』(NHK出版)。

 わずか1,000円のこの本の中に、10代の若者が知りたい性のこと、からだのこと、出産のこと、性病のことが過不足なくぎっしりと詰まっている。特に出産・避妊については詳しく分かり易く書かれており、マンガ調の挿絵やこまかな図表など、大人が振り返って読んでも読み応えのある内容となっているのだ。

 親目線の“与える”性教育本ではなく、自らが自分の身体に起こりうることを知り、そして相手の身体のことを知るための、そしてセックスを本当に理解して楽しむための名著、『新版 SEX & our BODY 10代の性とからだの常識』。

 一言で言えば、若者一人一人が手にしておきたい性のバイブル。これはあくまで個人的な意見ではあるが、学校の性教育の授業の副読本にしてもいいのではないか。
 いずれにしても、家庭に1冊あれば、親も読み、子も読むことができる本だから、性教育にかかわらず、「家庭の医学」本の傍らに、この本を置いておきたい。

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