レコード絵本―うさぎのつの

『レコード絵本 こどものくに』のレコード
 しばし雲に隠れていたのがすっきり見えて、幻想的な“中秋の名月”を愛でることができた。少しひんやりとした風もまた心地良い秋の夜。
 まだ小学生に上がる前の話。家の書棚に『レコード絵本 こどものくに』という童話のおはなしレコードが10枚ほど入っているレコード集の函があった。
 それを毎日のようにプレイヤーに掛けて聴くのが好きであった。「ありときりぎりす」「いっすんぼうし」「ピノキオ」「すいれん」「おかしなきっちょむさん」「たつのこたろう」などなど。お話を吹き込んだ俳優陣は錚錚たる人達で、岸田今日子さん、熊倉一雄さん、市原悦子さんら。

 そう、“中秋の名月”で思い出したのである。そのうちの一つ、「うさぎのつの」のはなしを。

 幸運というべきか奇妙というべきか、その当時のレコードがまだ現存している。今となってはとても貴重なレコード集なので、もはや処分する気など毛頭ない。
 しかし考えてみれば、それは“レコード”+“絵本”なのだが、幼児であった頃から、絵本が失われていて私は絵本の方を見たことがない。それぞれ一体どんな絵本だったのだろうか。ともかく、その当時は純粋にレコードだけを聴いて楽しんでいたのだ。

 もうすっかり古びてしまった函の中から、「うさぎのつの」のレコードを取り出して、プレーヤーに掛けて聴いてみた。

《レコード絵本 こどものくに/うさぎのつの(フランス民話より)
■おはなしとうた 黒柳徹子
■構成 藤田圭雄
■音楽 小林秀雄
■コーラス ヴォーカル・ショップ》

*

 音楽とと共に、黒柳徹子さんの透き通った若々しい声と歌が聴こえてきた。さながら童話ミュージカルである。これまた錚錚たるヴォーカル・ショップの男声重唱も明るく名調子だ。

 レコード盤の傷がひどく、特にB面は音飛びがひどかった。が、およそ40分弱であろうか。聴けば、そのおはなしも歌も、じわじわと思い出してきて、身体の中にすうっと音が入り込んでいくかのような軽やかな気分を味わえた。

 「うさぎのつの」のおはなしを要約すると、こんなぐあいである。

 ――森の中に、動物たちが棲んでいる。王様はライオンである。朝、動物たちが広場に集まった。音楽主任のおさるのモンキーと放送局長のゾウが一仕事をして、ラジオ体操を済ませる。動物たちがライオン王様に朝の挨拶をする。
「ライオン王様、おはようございます!」

 午前中、ライオン王様は家来を連れて、一軒一軒動物たちに声を掛けてお話をしたり、相談に乗ったりする。動物たちにとても優しいライオン王様だ。

 ところが、ライオン王様が道を歩いているその時、何かにつまずいて転んだ。右の脚に何かが突き刺さっている。家来もびっくりして、他の動物たちもみんな駆け寄ってきた。ライオン王様が泣き叫ぶ。
「いたいよー。いたいよー」

 右の脚に突き刺さったのは、シカの角だった。「いたいよー。いたいよー」とライオン王様は子供のように泣いた。院長のラクダ博士が駆けつけて、ライオン王様は森病院へ運ばれていった。

 総理大臣のトラが城に赴いて、長い長い会議が始まった。その結果、シカはもちろん、角をもっているすべての動物は皆、森に棲んではいけないことになった。もし森から出ていかない者がいたら死刑だ、という命令だ。
 これは警視総監のヤマネコの放送によって、皆に知らされた。角をもっているシカ、ヤギ、ウシ、キリン、カタツムリなどは急いで森から逃げ出していった。

 さて、月夜の晩、ウサギのぴょんきちが広場にやってきて、楽しそうに歌いながら踊りを踊っている。
《月夜に月を 見ていると 月からカナリヤ飛んでくる 離れて寄って 輪になって 続いていくつも 飛んでくる…》

 ふと、ぴょんきちは地面を見た。自分の姿の影が見える。その影法師には、角が生えていた。
 ぴょんきちはびっくりして家に帰った。ぴょんきちのおとうさんもおかあさんも、影を見ると角が生えている。これはたいへんだ。このままだと死刑になってしまう。ぴょんきちたち親子は、急いで森から逃げ出していった。

 翌朝、このことを知った他の動物は大笑いした。まったくあわてんぼうのウサギだ、臆病者のウサギたちだ、と――。

*

 無月という言葉もあるが、なんとか名月を見ることができた。月を見て「うさぎのつの」のレコードを思い出したということは、よほど、ウサギのぴょんきちが月夜で歌った《月夜に月を…》の歌(黒柳徹子さんが歌っている)が印象的だったのだろう。私は40年以上、忘れることなくこの歌の1番目をはっきりと憶えていた。

 フランス民話についてまったく詳しくないけれども、この手の民話や童話集はこってりとした濃厚なイメージがある。ケルト人ゆかりのブルターニュ伝承の民話が多いということを知ると、「うさぎのつの」はどこに由来した民話なのだろうかと、想像を巡らしてしまう。

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