小学4年社会のハイトップ

1982年に買った旺文社の参考書
 学生時代、参考書を買い込んで予習復習の猛勉強した、という経験がほとんどない。不真面目一辺倒。だから成績なんて上がらない。
 ただし一時だけ、例外があった。小学4年。その時だけ意欲があって、小学4年時(1982年)に旺文社の『ハイトップ』参考書を買った。その“社会”の参考書が、驚くべきことに今でも手元に残っているのだ。

 私自身の学生時代の不真面目さには波があった。中学校時代は底知れぬ不勉強の毎日であったが、小学4年の時は、クラスメイトの関係に意外にも恵まれ、勉強意欲を大いにそそられたのだった。生活全般でも小学4年の思い出がいちばん深くて濃い。
 もっと端的に言ってしまえば、その頃真剣な恋をしていたのである。したがって学校という本来退屈きわまりない環境が、その1年間だけはまるで違った環境に見え、香り豊かな、色鮮やかなと形容すべき毎日を濃厚に体験した。その時の小学4年社会のハイトップ参考書がいまだ現存している理由は単純なことで、俄に思い出が蘇るための装置として、本を残すべく残したものだ、ということなのである。

 そんな個人的な思い出はさておき、旺文社『ハイトップ 小学4年社会』を開いてみる。
 初版はどうやら1978年らしい。本のカヴァーはとっくの昔に無くなった。見開きの一色刷の写真では、“新しいまち”として解説された東京の多摩ニュータウンの俯瞰の全景写真が掲載されていて、時代を感じさせる。
 多摩ニュータウン。まだ疎らながらも、車両が通行している整備された道路と高架化された美しい歩道。その歩道には、幾組もの家族が写っており、表情まではさすがに見えぬがおそらく満ち足りた幸福感を噛みしめて歩いていたのではないか。そうして丘陵にそびえる団地と高層ビル。何もかも新しい都市といった風情。
 この参考書では、社会科すなわち「公共」と「公民」という基本的な概念の学習がねらいであり、その多摩ニュータウンの全景写真からそういった趣旨が透けて見えてくるのだ。

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 『ハイトップ 小学4年社会』の内容は全4編に分かれている。第1編が「地図の見かた・資料の使いかた」(第1章 地図の見かた、第2章 資料の使いかた)、第2編が「健康で安全な生活」(第1章 健康なくらし、第2章 安全なくらし)、第3編が「生活を高めるために」(第1章 市や県の仕事、第2章 地域の開発と保全)、第4編が「いろいろな土地のくらし」(第1章 気候のちがいと人々のくらし、第2章 土地のようすと人々のくらし)。

 現況の小学4年の社会科がどのような内容になっているのか、私はよく知らない。しかしながら数十年前の小学4年の社会科がどうであったかは、この参考書を読めばはっきりと分かる。

 例えばいま改めて、第3編第1章にある「市や県のいろいろなしせつ」というページを見てみると、けっこうその内容は小学4年生ではハードなのではないかと思えた。当時小学4年ではこんな難しいことを学んだのかと感心してしまうのだが、もちろん当時の私はこの参考書を買ったからといって、内容を理解していたとまではいかない。その可能性はかなり薄いだろう。

市や県のいろいろなしせつ
 第3編第1章「市や県のいろいろなしせつ」。
 ここでは市や県のいろいろな施設として、9の施設を挙げている。①市役所・県庁、②出張所、③税務署、④裁判所、⑤労働基準局、⑥警察署、⑦消防署、⑧保健所、⑨市立・県立病院。そのほか、市役所のしくみだとか、地方公務員とか国家公務員とか、高等裁判所や最高裁という機関の名称もどんどん出てくる。こんな名称がテストに出てくるのだから、頭が痛くなりそうだ。

 さらに次のページでは産業を進める施設として、商工会議所、中小企業会館、産業貿易会館、農業協同組合中央会、農業試験場、農業協同組合、生活協同組合、銀行、職業安定所が解説され、さらに次のページでは文化を高める施設として、学校、教育委員会、図書館、博物館・美術館、公会堂・文化会館、体育館・競技場・公園、放送局・新聞社、住宅団地が挙げられ、重要用語の中に日本住宅公団という名称も出てくる。
 これは丸暗記するだけでも大変な、果たして小学4年社会科の内容なのか、ちょっと信じられない難しさになっている。

 そうは言っても確かに当時、茨城県県庁を見学する目的で水戸へ行き、古びた県庁舎の議会などを見学したついでに偕楽園も歩き回った思い出がある(県庁は分かるが、日本住宅公団のことなどは憶えていない)。県庁見学は、第3編第1章の市や県のいろいろな施設についての学習の一環だったことは明らかである。ただ、地元市内の各種機関を見学した、という記憶もない。
 今の個人的な感覚では県庁舎を見学するより、最高裁判所だとか税務署を見学したかった、と思うのだが、いやいやその当時、水戸の県庁舎を見学する際に、好きな女の子と一緒に話しながら歩き回ることにだけ気が向いていて、仮にどんな所へ見学しに行ったとしても、頭の中は同じだったであろう。

 『ハイトップ』はもはや懐かしい古書とは言え、今となっては役に立っている参考書である。あくまで役に立ったのではなく、大人になっていま、役に立っているのだ。
 あの時のいくつもの思い出をじんわり思い出しながらも、参考書の内容に真面目に集中する自分自身がある。不真面目であった学生時代を、大いに反省したい。

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