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7月, 2021の投稿を表示しています

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消えゆく写真

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【FUJIFILM X-T3で試し撮り。被写体はLEICA IIIc】  元日の午後、手持ちのカメラ(FUJIFILM X-T3、レンズはFUJINON XF18-55mm F2.8-4.0 R LM OIS)でアンティークと化したLEICA IIIc(レンズはCanon SERENAR 50mm F1.9)を被写体に試し撮りをおこなった。ここ数日間続いた日本海側の寒波の煽りで、関東地方は異常なほど冷え込み、ただただ日光が神々しく、温かく、優しさをも醸し出しているかのようで、直接光と間接光に包まれたアンティークの被写体は何か、その機械的な佇まいの中に、微睡んでいるようにも見えた。  しかし一方で、いずれ消えゆくかも知れないアンティークの宿命の儚さもまた、写真という風雅の物悲しさを表している。《所有》とは、実に悲しげな行為なのである。ともあれ、個人的なクラシック・カメラの思い出は尽きることがない。私の記憶は、およそ20年前のウェブへといざなわれる――。 ➤写真とカメラを教示したmas氏  20年前のインターネットがきわめて遠い事象となりつつある、コロナ禍を経た時代の流れ。世相流行の移ろいはともかく、社会生活全般の隔世を感じるのは、私だけであろうか。今こうしてブログに文章を書いていることも、自身のウェブサイトをいくつか構築し、音楽や映像や写真などのポートフォリオを細々と展開しているのも、およそ20年前より私淑していた、mas氏のウェブサイトをお手本にしたものなのである。インターネットとのかかわり方、その作法や流儀について、詫び寂の何たるかまでも教示されたように思える。  20年前、彼に倣ってクラシック・カメラ遍歴(別の鋭い言い方では「クラシック・カメラ・ウイルス」とも言う)にどっぷりと浸かり、写真とカメラによる悦楽の日々を送っていたあの頃が、ひどく懐かしい。  mas氏に関しては、昨年の 「思い出のmas氏―池袋のお馬さん」 やそれ以前に多くテクストを書き連ねているので、ここでは詳しく書かない。  今はネット上に現存していない、彼の旧ウェブサイト[mas camera classica]では、洒脱な文章でカメラや写真についてとくと語られていて、その内容に私も感心したのだった。一部をコピーしてテクストファイルとして記録していたのもとうに忘れ、それをPCのハードディスク内か

『駅馬車』の酔いどれ医師と英会話

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【南雲堂の英会話カセットテープより映画『駅馬車』】  酒は映画を誘発し、映画は酒を誘発する――。今、私はジョン・フォード監督の1939年のアメリカ映画『駅馬車』(“Stagecoach”)を観終わったばかりだ。片手には、琥珀色のバーボンの入ったグラスが、ゆらゆらと指の中で踊りながら、室内の灰色の照明光を映し出している。映画の余韻が、この琥珀色の液体の中に、すっかり溶け込んでしまっている。  『駅馬車』。Stagecoach――。子どもの頃は只々、ニヒルなジョン・ウェイン(John Wayne)の格好良さだけに憧れたものである。駅馬車が目的地のローズバーグへ向かう途中、アパッチ族の襲撃に遭い、激走しながら騎馬の群れと壮絶な戦闘を繰り広げるシーンにたいそう興奮したのだった。アパッチのインディアンが撃たれると、激走する馬から転落するスタントがあまりにも見事だった。馬もまたたいへんよく訓練されていて、上手に美しく転げるのである。  今でもその激走シーンの興奮の度合いが劣ることはないが、むしろ今となれば、そうした迫力のシーンとは毛色の違う、大人の男と女の饒舌とつまずきと、そして人生への諦念、あるいは一つの例として、全く頼りがいのない男すなわち酔いどれ医師ブーンの、とうに干涸らびてしまったある種の純粋無垢な心持ちの困惑に――私は惹かれるのであった。そう、私は酔いどれ医師ブーンを、人間として愛してしまっているのだった。 ➤映画を音で愉しんだ少年時代  話をいったん私の少年時代に逆戻しする。  実はこの話は、11年前の当ブログ 「STAGECOACH」 で既に触れてしまっている。したがって、多少話が重複するけれども、小学校低学年の頃、私は、まだ観ぬジョン・フォード監督の『駅馬車』を、ちっぽけなカセットテープの音声で鑑賞していたのだった。  主人公リンゴ・キッドを演じるジョン・ウェインの声は、どうもか細く、しかもほとんど無口に近いので、聴き込んでいない時点では、なかなかジョン・ウェインの声がはっきりと聴き取れなかった。それよりも、馭者のバックを演じるアンディ・ディヴァイン(Andy Devine)の声がやかましく、こちらの声ははるかに通りがよくて聴き易かった。しかしながらあの頃、そのカセットテープを何度も聴いた。  ストーリーの軸となる駅馬車は、アリゾナ州のトントからニューメキシコ州

メーカーズマークのバーボン

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【メーカーズマークは誉れ高いケンタッキー・ストレート・バーボン・ウイスキー】  酒を飲み交わす友がいるのなら、たぶんそれは生涯にわたって最高の友である。酒場で自分自身の本心をさらけ出す必要はなく、ひとときの時間を、優雅に共有しうる友がいることこそが、大切なのである。もはやあなたはあなたであることを、友がよく知っているのだから――。  私は今、バーボン(Bourbon)を飲んでいる。バーボンについては、7年前の 「『洋酒天国』とバーボンの話」 以外にほとんど語っていないと記憶する。ではなぜ今、私はバーボンを飲み、それを語ろうとしているのか。  ピーター・フォーク主演のアメリカのテレビドラマ『刑事コロンボ』シリーズで、1976年の「死者のメッセージ」(“Try and Catch Me”)というのがある。老齢のミステリー作家アビゲイル・ミッチェルの役で女優のルース・ゴードン(Ruth Gordon)が出演している。ルース・ゴードンと言えば、個人的には、ロマン・ポランスキー監督の1968年の映画『ローズマリーの赤ちゃん』(“Rosemary's Baby”)のカスタベット夫人の役の印象が強烈である。「死者のメッセージ」には、俳優チャールズ・フランク(Charles Frank)が、アビゲイルの姪の夫役で出演しており、酒を飲むシーンがある。  このシーンが私にとって、ちょっとした香り立った酒の印象を残しているのだ。自分がまだ酒を飲む年頃ではない頃から――。さて、チャールズが飲んでいたのは、スコッチ・ウイスキーであろうか、バーボン・ウイスキーであろうか。  それがスコッチであろうが、バーボンであろうが、どちらでも全く構わないのだ。  しかしながら、アメリカ人男性が酒を飲むとすれば、スコッチかバーボンかのウイスキーである――ということを、海の向こうの映画などを見てさんざん学習してきたわけである。ごく最近のアメリカ映画では、なかなかこうはいかない。スコッチあるいはバーボンは、その強烈な刺激のある飲み物のせいか、“ジェントルマンの飲み物”としてかつては通用してきたし、もしも映画の中のシーンで、アメリカ人女性がバーボンを飲んだとすれば、それは明らかに女性は、“Heavy Drinker”であることを印象づけていることになる。  女優ルース・ゴードンが若い頃、エイブラハム・リン

思い出のmas氏―池袋のお馬さん

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【私淑するmas氏が撮った「池袋のお馬さん」の複製画像】  思いがけず、 《その出会いは、突然やってきた》 ――の書き出しで始まる文章をウェブで見たのは、もうかれこれ18年ほど前になるのだろう。そこで読み耽ったひとかたまりの秀逸な文章と、添えられていた白い“お馬さん”の写真(画像)=「池袋のお馬さん」を眺めた時から、私のクラシック・カメラ遍歴が始まったのだった。このことは忘れがたい思い出である。  私淑するmas氏(当ブログ 「中国茶とスイーツの主人」 参照)について語ることは、彼が好んだサブカルを追従することとなり、その旨味の源流を探し求める《悦楽》となる。ウェブ上の彼のテクストと写真を眺めていたあの頃のことを思い出すことは、私自身の美意識の再発見にもつながる。本当にそれは《悦楽》そのものなのだ。  彼の趣味は私自身に伝播した。ライカ、コンタックス、ソ連製カメラ…。その頃のコレクションは、今となってはほとんど別の所有者のものとなってしまったが、手元に残ったいくつかのカメラとレンズ(例えばLEICA IIIcにCanon SERENAR 50mm F1.9のレンズやRollei 35 LEDなど)を眺めれば、また再び銀塩という“原核生物”に依存する日が来るとも限らないのである。  私のクラシック・カメラ遍歴が始まった、その「池袋のお馬さん」の写真(画像)は、かつてmas氏が管理していたクラシック・カメラの個人サイト[mas camera classica]にあったエッセイ「第二の原点 戦前のぼろぼろエルマーとの出会い」の中に添えられていたのだった。 ➤mas氏のぼろぼろエルマーとの出会い  まことに残念なことに、その[mas camera classica]の痕跡は、もはやウェブ上に存在しないと思われる(かつてそこには、“ライカ・ウイルス保菌者の毒抜きページ”といったような文言が示してあったと記憶する)。ちなみにmas氏については、当ブログの 「お茶とサブ・カルチャーのアーティクル」 シリーズなどで何度となく紹介してきた。カメラや写真、中国茶、スイーツ、あるいはジャズなどの音楽でずっと私淑した人であり、彼の撮った写真を眺めるにあたっては、その都度想像を膨らまし、言説の一つ一つを味わってきたつもりである。  彼が撮影した白い“お馬さん”の写真(画像)――「池袋のお馬さ

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