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12月, 2021の投稿を表示しています

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消えゆく写真

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【FUJIFILM X-T3で試し撮り。被写体はLEICA IIIc】  元日の午後、手持ちのカメラ(FUJIFILM X-T3、レンズはFUJINON XF18-55mm F2.8-4.0 R LM OIS)でアンティークと化したLEICA IIIc(レンズはCanon SERENAR 50mm F1.9)を被写体に試し撮りをおこなった。ここ数日間続いた日本海側の寒波の煽りで、関東地方は異常なほど冷え込み、ただただ日光が神々しく、温かく、優しさをも醸し出しているかのようで、直接光と間接光に包まれたアンティークの被写体は何か、その機械的な佇まいの中に、微睡んでいるようにも見えた。  しかし一方で、いずれ消えゆくかも知れないアンティークの宿命の儚さもまた、写真という風雅の物悲しさを表している。《所有》とは、実に悲しげな行為なのである。ともあれ、個人的なクラシック・カメラの思い出は尽きることがない。私の記憶は、およそ20年前のウェブへといざなわれる――。 ➤写真とカメラを教示したmas氏  20年前のインターネットがきわめて遠い事象となりつつある、コロナ禍を経た時代の流れ。世相流行の移ろいはともかく、社会生活全般の隔世を感じるのは、私だけであろうか。今こうしてブログに文章を書いていることも、自身のウェブサイトをいくつか構築し、音楽や映像や写真などのポートフォリオを細々と展開しているのも、およそ20年前より私淑していた、mas氏のウェブサイトをお手本にしたものなのである。インターネットとのかかわり方、その作法や流儀について、詫び寂の何たるかまでも教示されたように思える。  20年前、彼に倣ってクラシック・カメラ遍歴(別の鋭い言い方では「クラシック・カメラ・ウイルス」とも言う)にどっぷりと浸かり、写真とカメラによる悦楽の日々を送っていたあの頃が、ひどく懐かしい。  mas氏に関しては、昨年の 「思い出のmas氏―池袋のお馬さん」 やそれ以前に多くテクストを書き連ねているので、ここでは詳しく書かない。  今はネット上に現存していない、彼の旧ウェブサイト[mas camera classica]では、洒脱な文章でカメラや写真についてとくと語られていて、その内容に私も感心したのだった。一部をコピーしてテクストファイルとして記録していたのもとうに忘れ、それをPCのハードディスク内か

よみがえる『洋酒天国』―ニューヨークの酒場

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【新しく入手した『洋酒天国』第2号。表紙は柳原良平】  『洋酒天国』の 第1号 から 第61号 まで全号踏破し、昨年の11月、感極まって 「プレイバック―さらば洋酒天国、恋のソプリツァ」 を書いた。既に私の手元には、蒐集したこれらの冊子群は一切無い。――と思いきや、1冊見覚えのある本が迷い込んできた。偶然ながら某古書店で、『洋酒天国』の 第2号 を発見してしまったのである。それも真っさらな表紙――。  実は以前、この 第2号 を紹介した当ブログ 「『洋酒天国』とジプシー・ローズ」 (2015年5月)では、ボロボロに剥離した表紙を掲載した。その当時入手した貴重な 第2号 の本の表紙が、荒れに荒れてボロボロだったのだ。ところが今回、新しく見つけた第2号は、全くの真逆。整然と表紙が整っていて、しかも全体的にあまり読み込まれた形跡がない。  こうして私は、その真っさらな表紙の第2号に情欲を抱いたのである。懐かしく読み返してみれば、ジプシー・ローズと野田宇太郎氏のエッセイ以外のページも、なかなか洒落ていて、なぜあの時もっと紹介しなかったのか、勿体なく思えた。  というような理由で、今回特別に『洋酒天国』を復活させ、第2号のあれこれを詮索してみたいと思う。 ➤昭和31年、時代は荒々しく激動  壽屋(現サントリーホールディングス)PR誌『洋酒天国』第2号は、昭和31年5月発行。表紙のペーパークラフトは柳原良平。  昭和31年(1956年)という時代は、戦後11年目、復興を遂げた列島に、まだ生々しい戦争の傷痕や補償問題が紛糾していた頃であり、朝鮮戦争以後の米ソの冷戦下、人々の記憶に戦争体験の悲哀は消えるものではなかった。世界ではこの年、ハンガリーの内乱であるとか、イスラエル軍がエジプトに侵攻だとか、革命派のカストロがキューバに上陸など――が大きなトピックスであった。  国内の政治では、4月に自由民主党の党大会で初代総裁に鳩山一郎氏が選出される。同年10月に、日ソ国交回復に関する共同宣言が調印。これを機に鳩山氏は、政界から退くことを表明。12月に鳩山内閣総辞職、石橋湛山新総裁による石橋内閣が成立。とどのつまり、前年の政局――右派左派に分かれていた社会党の統一と跳躍と拡張(反安保)――に危機感を抱いた保守派、すなわち保守政党であった日本民主党と自由党が合同して自由民主党となり、第一党と

伊丹十三の『ヨーロッパ退屈日記』とアバクロイズム

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【昨今ではたいへん偽物が出回っているが、このアバクロのカタログは本物です】  伊丹十三氏の 『ヨーロッパ退屈日記』 (新潮文庫)との縁はまだ日が浅い。本来ならば、開高健氏の書物と同様、旅のお供に持参して、新幹線で京都へ向かう窓際にて読めば、いかにこれが最適なエッセイ集であるか堪能できる。しかし今、「マスクはパンツだ」と叫ばれるご時世だ。パンツを口にしたまま、この本を列車内で読みたくない。もうしばらく旅の体現の猶予をいただきたいのである。  先日、アバクロンビー&フィッチ通称アバクロ(Abercrombie & Fitch)のコートの古着を出してきて眺め、さて今冬はこれを着ようかしらんと思案しているところで偶然、 『ヨーロッパ退屈日記』 を読んで、正装推奨の話に出くわした。これにより、いささか気分を害し、何を言っているんだ伊丹氏は――と内憤したのも束の間、好みとしては十分受容でき、かつアバクロは“正装ではない”にせよ、カジュアルのトラディショナルをうまい具合に包摂した一流の老舗ブランドではないか(しかも建国以来のアメリカらしい風情が感じられる)と考えがまとまりつつあったので、これを本題としてみたくなった。 【伊丹十三著『ヨーロッパ退屈日記』(新潮文庫)】 ➤正装の快感  英国人の正統派の気風を慮ったエッセイが、 『ヨーロッパ退屈日記』 の醍醐味である。山口瞳氏は、この伊丹氏の、言わば産業革命以降のヨーロッパ人を多少皮肉った軽妙洒脱なエッセイ集について、 《中学生・高校生に読まれることを希望する。汚れてしまった大人たちではもう遅いのである》 と奨めている。また、その対象物への批評精神が、本格的個性的であることも素直に認めていた。  そうした随筆を書き残した伊丹氏の顕著な姿勢が、エッセイ「正装の快感」によく表れている。  伊丹氏が雑誌『LIFE』の、ボクシングのヨーロッパ・ウェルター級タイトルマッチのスナップを見て思わず感心したという話。観客が皆、タクシード(tuxedo)を着ていたのだそうだ。 《このように、個人に格式を強制してくる社会というのは、嬉しい存在ではないか。日本とは逆である。日本では、個人が社会に格式を要求せざるを得ない》 。伊丹氏はそんなふうに飄々と呟く。  正装するのは、嬉しいことだとも述べている。 《汽車の中のステテコ姿を擁護する人がいるが、彼

ローリー・シモンズの水中バレエ

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【水中に浮遊する人形。ローリー・シモンズの『ウォーター・バレエ』より】  “フェティシズムの化身”たる文筆家・伴田良輔氏の名著 『奇妙な本棚』 (芸文社/1993年初版)は、私の密やかな愛読書である。この本の中で、写真家ローリー・シモンズ(Laurie Simmons)の写真集『ウォーター・バレエ』(“WATTER BALLET/FAMILY COLLISON”/1987年刊)が、「水の踊り」というタイトルで取り上げられているのだが、数年来、この本を眺めている中、客観的にそれがとても数奇な眼差しであることを自覚しながらも、心の奥底のペダンティックなうごめきを抑えることができなかったのだった。知りもしないローリー・シモンズについて語りたい――と。  そうして難儀な捜索が始まった。『ウォーター・バレエ』を入手したい――。しかしこの写真集が、実はたいへんレアアイテムであることに気づき、ウェブ上の古書店で運良くそれを見つけたとしても、到底廉価とは言えないような価格で販売されているので、私は手が出せなかった。その都度、チェックをしてみたものの、ほとんど気落ちして諦めることが多かったのである。  ところが幸いなことに、ローリー・シモンズのバイオグラフィー的な写真集『LAURIE SIMMONS』(A.R.T. Press/1994年刊)を最近入手することができた。この本の中に、8点の『ウォーター・バレエ』所収のカットを見つけることができた。  とりあえず、これでいい――。万を辞して、ペダンティックな心持ちで伴田氏の 『奇妙な本棚』 のエッセイ「水の踊り」について取り掛かろう。このフォトグラフについて語ってみたい。ということで、以下、迂闊な文章をご容赦願いたい。 【伴田良輔のエッセイ集『奇妙な本棚』より「水の踊り」】 ➤冷たい人形たちの水中浮遊  伴田氏のエッセイ「水の踊り」。  そこには、上半身裸の女性が、両手を拡げ、水面近くで眼を瞑り、垂直に浮かんでいる写真が掲載されていた。ローリー・シモンズ『ウォーター・バレエ』の1カットである。キャプションにこうある。 《人間と人形の見分けがつかなくなっていく過程を水のダンスが演出する。プールの底に映る水面の影がたとえようもなく美しい。10点の写真だけで構成された絵本スタイルの写真集》 (伴田良輔著『奇妙な本棚』「水の踊り」より引用)  

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